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札幌高等裁判所 昭和59年(ネ)13号 判決

控訴人(被告)

島田武

ほか一名

被控訴人(原告)

高橋幸吉

主文

原判決を次のとおり変更する。

一  控訴人らは被控訴人に対し、各自金一二六万八一三〇円及びこれに対する控訴人島田武は昭和五八年四月七日から、控訴人幌西自動車運輸株式会社は同年三月三一日から、各完済に至るまで金五分の割合による金員を支払え。

二  被控訴人の控訴人らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一・二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人らの、その余を被控訴人の各負担とする。

四  この判決は被控訴人の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

一  申立

(控訴人ら)

「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求める。

(被控訴人)

「本件控訴を棄却する」旨の判決を求める。

二  主張

当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する(ただし、原判決二枚目裏二行目に「附近」とあるのを「付近」と、同三枚目表一〇行目に「蒙つた。」とあるのを「被つた。」と、同裏三行目及び同六行目にそれぞれ「出損」とあるのをいずれも「出捐」と、同五行目に「本件訴訟法提起し」とあるのを「本件訴訟を提起し」と、各訂正し、同三枚目表三行目の「営んでおり、」の次に「その従業員である」を加える。)。

(被控訴人)

1  車両損害について

(一) 被控訴人車の購入代金の内訳は、次のとおりである。

車両本体価格 金一八七万九〇〇〇円

付属品一式 合計金一七万五五〇〇円

諸税等付帯費用 合計金一九万二四八〇円

(二) 被控訴人は、本件事故によつて破損した右被控訴人車を引取(査定)価額金七二万四〇〇〇円で下取りに入れ、これと同種、同型の新車を車両本体価格金一七九万円で買替えたが、右買替えのため、更に諸税等付帯費用合計金一九万二四八〇円を出捐した。

(三) 右(一)及び(二)記載の付帯費用の内訳は、いずれも次のとおりである。

自動車取得税 金八万一〇五〇円

自動車重量税 金三万七八〇〇円

自賠責保険料 金三万三七五〇円

登録諸費用 金三万〇五八〇円

車庫証明費用 金九三〇〇円

2  代車使用料について

被控訴人は土建会社に勤務し、通勤のほか、土木作業現場への往復のため被控訴人車を使用していたところ、本件事故により代車を必要としたため、訴外帯広三菱自動車販売株式会社から普通乗用自動車一台を使用料一日五〇〇〇円で賃借した。

三  証拠関係

本件訴訟記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1及び2の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、被控訴人が本件衝突事故によつて被つた損害について判断する。

1  車両損害

(一)  成立に争いのない甲第五号証、乙第二号証、被控訴人車を撮影した写真であることに争いのない甲第一一号証、原審における証人西村章夫の証言により真正に成立したと認める甲第六号証、同第九号証、当審における被控訴人本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第一九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第一八号証、原審及び当審における証人西村章夫の証言、当審における被控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次のように認定判断することができ、乙第三号証の記載及び当審証人丹生谷司郎の証言中、これに反する部分は前掲各証拠に照らし採用できない。

(1) 被控訴人車は、被控訴人が昭和五八年一月三一日に訴外帯広三菱自動車販売株式会社(以下「訴外帯広三菱」という。)から車両本体価格金一八七万九〇〇〇円、付属品一式金一七万五五〇〇円、付帯費用金一九万二四八〇円、合計金二二四万六九八〇円として、新車で購入したもので、右同日付で初度登録がなされているが、被控訴人は同年二月一七日にその納車を受けてから本件事故の日まで僅か六日間使用したのみで、その間の走行距離も五五〇キロ余にすぎず、殆んど新車同様であつたこと。

(2) 本件衝突事故の際、被控訴人車はその前部右角部に正面方向からの強度の衝撃を受けたため、右側前照灯付近を中心とするラジエーターグリル及び前部ボンネツト右側先端から前部フエンダー右側面にかけた部分が押し潰され、前部バンバー右側部分も曲損後退し、フロントウインド右側のビラー部分も折れ曲つて車体の屋根部分が全体にずれたほか、運転席側ドアの取付部等にも歪みを生ずるなど、その部品の交換並び板金塗装等の外装修理だけでも約五五万円の費用を要する損傷を受けたこと。

(3) 右の修理後においても修復箇所の車体の歪みから生ずるいわゆる風切音の異常発生を防止することは極めて困難と考えられたほか、特に、前記衝突状態とその損傷の箇所からみて、車体右側のフレーム及びこれと構造的に密接に関連する右側前輪の操行装置等外見上容易に識別し得ない部位にも相当強度の衝撃が加つたものと認められ、これにより車両として最も重要な走行機能にも何らかの欠陥を生ずることが推測され、通常の修理によつてこれらの機能面に将来何らの障碍も残さない状態にまで修復し得る保障は存しなかつたこと。

(4) 右事故後の被控訴人車の価額は、同年三月七日訴外財団法人日本自動車査定協会がこれを下取車として評価したところ、金七二万四〇〇〇円と査定され、仮に前記修理費用をかけて右車両を修理したとしても、その購入時の車体本体の価格(金一八七万九〇〇〇円)を大幅に下回ることが避けられないと予想されたこと。

(5) このため、被控訴人は、右被控訴人車を修理するよりはむしろ新車を買替えるほかないものと考え、同月二八日訴外帯広三菱に対して、被控訴人車を未修理のまま下取りに入れたうえ、これと同種、同型の新車の購入方を申込み、同年四月二一日その納車を受けたこと。

以上の事実に照らすと、被控訴人車は、僅か六日間しか使用されなかつた新車と同視し得る車両であつたというべきであり、被控訴人がその修理を断念してこれを下取車として同種、同型の新車に買替えたこともやむを得なかつたと認めるのが相当である。

(二)  被控訴人は、被控訴人車の購入代金から前示事故後の査定価額を差引いた金額に、その買替えのために新たに付帯費用として出捐した金額を合算した額をもつて本件車両の損害額として主張するが、前認定のとおり、被控訴人は、右車両については被控訴人車を下取車としてこれを同種、同型の新車に買替えたことにより、その損害を被る以前の状態に回復し得たのであるから、このような場合には、右新車の買替えにあたり新たに出捐することを余儀なくされた金額からその下取車の価額を差引いた金額をもつて被控訴人の損害とみるのが相当である。

しかして、前掲甲第六号証、同第一八、第一九号証によれば、被控訴人が新たに出捐することを余儀なくされた買替え車両の取得費用は、車両本体価格金一七九万円(このうちには、割賦手数料四万円が含まれているが、本件損害額算定の基礎に加えるのが相当と認める。)と、自動車取得税八万一〇五〇円、自動車重量税三万七八〇〇円、自賠責保険料三万三七五〇円、登録諸費用三万〇五八〇円及び車庫証明費用九三〇〇円の合計金一九八万二四八〇円であること、他方、被控訴人車の下取価額は前示査定額を上回る金七五万円であつたことが認められ、他にこの認定を左右する証拠はない。

したがつて、その車両損害額としては、右買替え車両の取得費用合計金一九八万二四八〇円から下取車の価額金七五万円を差引いた金一二三万二四八〇円の限度で認めるのが相当である。

2  代車使用料

成立に争いのない甲第一二号証、前顕西村証人の原審証言により真正に成立したと認める甲第七号証、右証言及び前顕被控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人は、訴外株式会社遊佐組に土木工事現場の責任者として雇われ、被控訴人車を通勤に使用するほか、工事現場の見回りの際の交通手段として使用していたものであるところ、本件事故により右車両を使用することができなくなつたため、昭和五八年三月一〇日ころまでの間は控訴人の加入した損害保険会社から提供された代車を無償で使用していたが、控訴人らとの間の本件賠償交渉が長期化するに及んで右代車を引きあげられたため、同月一一日から同年四月二一日までの間訴外帯広三菱から一日五〇〇〇円で代車を賃借し、その使用料として金二一万円を支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。

しかしながら、前記1、(一)、(4)に認定したとおり、被控訴人車は同年三月七日にその下取査定がなされていたのであるから、被控訴人において、その時点で買替えの手続に着手していたならば、すくなくともその後一週間余で右買替え車両の引渡しを受け得られたと考えられるから、被控訴人が代車の賃借を必要とした期間は、同月一五日までの五日間と認めるのが相当である。

そうすると、代車使用料は、被控訴人の支払つた金員のうち金二万五〇〇〇円を損害として認めるのが相当である。

3  司法書士費用

原判決六枚目表六行目から同裏三行目までに判示するところは、同表八行目に「金六万六〇〇〇円」とあるのを「金六万六一〇〇円」と、同九行目に「訟務基本報酬等金四万〇九五〇円」とあるのを「訟務基本報酬金一万〇六五〇円」と、同末行の「その余の支出部分は」以下同裏一行目の「費用に相当し、」までを、「その余の支出部分は、」と、各訂正するほかは、当裁判所の判断と同一であるから、これをここに引用する。

三  よつて、被控訴人の本訴請求は、控訴人らに対し各自金一二六万八一三〇円及びこれに対する控訴人島田武については訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五八年四月七日から、控訴人幌西自動車運輸株式会社については訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな同年三月三一日から、各完済に至るまで民事法定利率金五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきであるから、これと異なる原判決を右のとおり変更し、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、九二条、八九条、九三条を、仮執行の宣言につき、同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 瀧田薫 吉本俊雄 和田丈夫)

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